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第3話

「カズとハジメが仲良いのって意外だな」 以前は周りの同級生によく言われたこの台詞。 確かに俺たちは性格は真逆だ。目立ちたがりで大雑把な俺と、内向的で几帳面なハジメ。しかし正反対の2人には共通点があった。 それはゲームだ。 小学生の頃に発売されたゲームがあった。それはテレビや雑誌で大々的に広告されていたので、周りの友人は全員持っていた。 小さな子供が遊ぶにはかなり難しかったが、俺は途中で諦めるのが悔しかったから徹夜をしてクリアした。 「あのゲームクリアしたぞ。最後の敵がかなり強かったけどな。お前らはどうだ?」 教室に入るや否や俺は早口でまくし立てる。はやくゲームの感想を語り合いたかったのだ。しかし彼らの反応は俺と真逆だった。 「え、あんなクソゲーまだやってたの?オレは難しくてさっさと諦めたよ。」 その瞬間、自分と友人の間に壁が出来たのをはっきりと感じた。当時の俺は、温度差とも言い換えられるそれを受け止めきれるほど大人じゃなかった。 その日の帰り道。そのまま帰宅する気分になれなかったので、そのまま公園へ向かった。本当は寄り道は禁止されているのだが。 この公園はお気に入りの場所だった。木陰のベンチでゲームをするのは気持ちが良かったからだ。 普段なら誰も使用していない特等席に先客がいた。そこに同い年くらいの少年が座っていた。彼はランドセルを背負ったまま、手元の携帯ゲーム機に夢中になっている。 教室の一件で傷心していた俺は、ゲームが好きそうな同年代の少年に親近感が湧いた。その時の俺は誰でもいいから話したい気分だった。 木の陰で暗く、顔が見えなかったので俺は歩み寄った。彼は近寄って来る俺に気付かないほど夢中で遊んでいる。髪についた落ち葉にも気が付いていないようだ。 目の前で座る彼の顔を見た俺は目を見張った。俺はこいつを知っている。 彼はクラスメイトの伊藤一だ。教室での彼はいつも一人で本を読んでいた。いつも無表情で社交的とは言えない彼に話しかける者は少なかった。 ハジメのゲーム機から聴き覚えのあるBGMが流れている。俺が徹夜してクリアしたゲームの音だ。 「さっきから僕の前で何してるの」 まさか話しかけられると思わなかったので仰け反った。最初から気付いていたのか。 「ごめん。この公園に人がいるのが珍しくて近寄っただけだ」 「嘘つかなくて良いよ。君もゲームしたくて寄り道したんだろ。」 彼は画面から目を離さずに言う。 「遊びたいなら隣に座りなよ」 全てお見通しって訳か。彼の言葉に甘えて座ることにした。 しばらく無言でゲームをしていると、ハジメが突然伸びをした。いつのまにか真上にあった日がすっかり落ちている。ちらりと画面に目をやるとエンドロールが流れていた。 「実は今朝の会話聞こえてたよ。僕はこのゲーム面白いと思うけど。確かに難しかったけどな」 それを聞いて目頭が熱くなるのを感じた。自分と同じようにゲームを楽しむ奴がいる。たったそれだけのことを心から幸せな出来事だと感じた。 涙が溢れてくる。俺は慌てて目を擦りながら、目にゴミが入ったと下手くそな言い訳をしたが彼はそれ以上突っ込んで来なかった。 この時、きっとハジメは良い奴なんだろうなぁと思ったのだった。

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