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バレンタインデー・ラブトラブル:仲直りの甘いキス!?
大好きな人を待つのって、時間の流れが止まったみたいに感じる。逢える嬉しさもあるけど、言葉足らずの自分がまた何かをやらかしてしまうのではないか。
そんないらない不安が、胸を過ぎってしまった。
「最近、吉川を怒らせちゃうことが多いから、尚更なんだよな……」
淳くんがクラスのみんなを上手いこと言って、追い出してくれたお蔭で、僕は教室でひとり自分の席に座って、ぼんやりしながら吉川が来るのを待っていた。
逢いたいけど、不安……。第一声は、何て声をかければいいんだろう。やっぱり、ごめんね。からだよな。
前回のときと同じく、僕の軽はずみな行動で、大事な吉川をキズつけてしまったんだから。
膝に載せている両手をぎゅっと握りしめたら、教室の後ろにある扉が、怖々といった感じでゆっくりと開く音が響いた。
「ノリ……」
扉が開かれる音と一緒に、気遣うようなその声を聞いて、体が勝手に反応した。居ても立ってもいられずに吉川に向かってダッシュし、愛しい体にぎゅっと抱きつく。
「吉川っ、吉川、逢いたかった――」
昼休みに逢ったばかりだったけど、心がすれ違ったから、とてつもなく寂しかったんだ。
そんな僕の体を同じように、吉川は抱きしめ返してくれる。大好きな吉川の優しい腕の中。その温かさに、つい溺れてしまいそうになった。
「あのね、吉川」
「謝るのは俺の方だ。ごめんな、ノリ。お前の話を、ちゃんと聞いてやれなくて」
「でも、それは僕が悪いんだし」
「淳がノリトの話を聞けって言ったあのときに、冷静になって聞いていれば、こんなことにはならなかったんだ。俺が悪いんだよ、ノリは謝らなくていい」
吉川の右頬が僕の左頬を撫でるように、優しく触れた。そして、耳元で続きの言葉を告げる。
「大好きなノリをキズつけてばかりで、本当にごめんな」
「でも……でも僕だって――」
甘く心に響くその言葉に何か言わなくちゃって思ってるのに、言葉が出てこない。吉川の背中に回した腕をぎゅうっと握りしめるだけで、もう精一杯だった。
「ノリ、怒らないから。大丈夫だから、話をしてくれないか?」
「煌……」
「ノリが落ち着くおまじない、ぼやぼやしてるとしちゃうぞ」
言い終わらないうちに、吉川が素早くちゅっとキスをした。そのことに慌てふためき、急いで周囲を見渡す。
「ちょっ!? ここ教室なんだぞ、何やってんだよっ」
吉川の口元を手で押さえると、クスクス笑って頭を撫でてくれた。
「大丈夫だって。いつもの心配性なノリに、やっと戻ったな」
「まったく、吉川には敵わないや。落ち込んでる暇を与えないトコ、さすがだと思うよ」
頭を撫でていた手を引き寄せて、ぎゅっと握りしめた。それだけで簡単に、心が落ち着いていく。
「吉川あのさあのとき。僕が持ってたチョコの箱について、どう思った?」
「ごめん。あのときは、お前の顔しか見てなくて……。いろいろショックでさ」
済まなそうな顔をして言う吉川に、僕は首を横に振って思い出すように伝えるべく、気持ちを込めて口を開く。
「あの女子が、吉川に渡して欲しいってチョコの箱を差し出してきたときは、すっごくガマンしたんだ。吉川は僕の恋人だから、そんなことはできないって言いたかったよ。だけどね、差し出されたチョコの箱をよく見て、考えが変わったんだ」
「どうしてだ?」
「その箱の包装のされ方が、手作りだっていうのが一目瞭然でさ。僕と同じくらい、不器用なコだったんだろうね。綺麗な包装じゃないけど、そこから一生懸命さが、じわぁって伝わってきたんだよ」
俯きながら喋っていた僕は、ゆっくり顔を上げて、吉川の目をじっと見てから告げた。
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