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第8話 一欠片のチョコレート
腰を固定されていても俺は怪我人だし、あんまり差し支えないよなと思ったが、かなりあった。
腰が固定される=全く動けない、これじゃ床擦れが出来る!!
直ぐに出来ないけど、そのくらいの苦痛だった。
「お兄さん、点滴まだ終わらないの?」
俺がぐったりしてたら、俺を仰ぎ見る『ゆりちゃん』がいた。
「……ゆりちゃん、病室に入ったら看護師さんに起こられるよ?」
「今は大丈夫だよ。『保護室の亮ちゃん』の時間と洗濯物取りに行く時間だもん」
……『保護室の亮ちゃん』ということは保護しなきゃならない子がいるのか。
「お兄さん。ゆりね、チョコレート持ってるんだよ。山本さんに貰ったチョコレート」
ゆりちゃんは拘束されて身動き取れない俺の口に、箱のチョコレートを一欠片割って口の中に入れてくれた。
「お兄さん入ってきたばっかりだから、お菓子持ってないでしょう?」
『ゆりがチョコレートあげたのナイショね』と笑いながら、俺の枕元のタオルでその汚れた手を吹いた。
その仕草が子供らしくて、可愛くて……、ゆりちゃんは男の子なのに俺はときめいてしまった。
「お兄さん、ありがとうは?」
まさか感謝しろといわれるとも思わなかったから、辛いのを通り越して、俺まで笑った。
「っ……ゆりちゃん、ありがとう」
「うん、お兄さん」
「……お兄さんはやめようよ」
「なんで?」
「ゆりちゃんと仲良くしたいから」
「でもお兄さん、ここにいるの長くないでしょう?ゆりは一生ここにいなきゃいけないってパパとママが言った。名前を覚えても直ぐに居なくなったら寂しくなるから、お兄さんは『お兄さん』でいい」
その言葉を聞いたとき、俺はショックだった。
看護師さんに怒られながらも話しかけてくれた『ゆりちゃん』も別の世界の人なんだと感じた。
「……お兄さん、お菓子注文出来るようになったら、ゆりにお菓子頂戴ね」
「うん」
ゆりちゃんはまた俺の病室から脱兎のごとく逃げていった。
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