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第9話 笛吹き先生

僕の主治医らしき先生は、男性のスマートな優しそうな先生だった。 「栄 三成くん、診察に来ました」 僕の部屋に来た先生の回りには男性患者さんがハーメルンの笛吹きのように集まり、異様だったから、この人もまともじゃないと思った。 でも一応診察に来てくれたんだから、取り敢えず俺は、 「……よろしくお願いします」 「あ、診察に挨拶が言えるんだね。栄くんは軽い方だ」 すると先生は開けっぱなしになっていたドアをバタリと閉めた。 一応はプライバシーは守ってくれるらしかった(除き穴からは大勢の患者さんが見ているけど)。 「君はどうして自分がこの病院に入院したのか分かるかい?」 凄く直接的な質問だった。 だから俺は、真面目にこう答えた。 「……自殺未遂したから」 「そうだね。人それぞれに命の重みがあるけれど、それには軽いもの重いものはないんだよ。今の君にはそれが分かるかな?」 なんか宗教みたいで胡散臭い。 「確かに命は軽々しく捨てたら駄目ですけど、絶望を感じて死にたくなったんです。だって……」 「替え玉入学に彼女にもフラれたからだね。前の病院からの診断書に書かれてあったあったよ」 俺はまだ点滴は終わっていないのに、先生は拘束具をはずしてくれた。 「なんで……外すんですか?」 「栄くんに暴れる気がないようだからね。ご飯は慣れるまでは部屋で食べて、慣れたらホールでね」 この病院は皆で飯を食べるのか。 とてつもなく嫌だな。 「この一週間君には色々な検査をするよ。心理テスト、脳波テスト、様々なテスト。君は有名な名門男子校出身だろうと関係のない心のテストだから、心を覗かせてもらう。それでこれからの治療を決めるから嘘をついたら駄目」 ということは、嘘をついたら病院から出るのは当分先なんだ。 先生は僕の枕元を見てにこりと笑った。 「ゆりちゃんに気に入られたみたいだね、栄くん」 「あっ!!これチョコレート一欠片もらって……多分俺が可哀想に見えたんだと思うんです多分。だから怒らないで下さい」 「ゆりちゃんはいい子だから、仲良くしてね」 すると先生は病室から出ていった。 ゆりちゃん……皆が口にする『仲良くして』『いい子だから』、それには何が隠れているんだろう。

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