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第10話 盗られたチョコレートと奪われたキス
拘束具が外れたら、色んな患者さんが俺を見に来た。
なんで入院しているのかも分からない人もいれば、見た目から入院が必要な患者さんもいた。
でもなんでか皆が男性だった。
「兄ちゃんは名前なんての?」
「……栄です」
「上?下?」
「上の名前です」
車椅子のお爺さんはどうやらたまに幻覚が見えるそうで、移動手段が車椅子になってしまったらしい。
「一番奥の部屋は覗かないほうがいいよ」
「なんでですか?」
「保護入院の部屋だから。でもまあ奥に大きなドアがあって鍵が掛かってるから中は偶然でもない限り覗けないけど」
保護入院……ゆりちゃんが言ってた『亮』という子が入ってるのかな。
「ねえ、お兄さん。ゆりのチョコレート知らない?」
車椅子のお爺さんの後ろから声がしたと思ったら、ゆりちゃんだった。
お爺さんは困ったような口調で、
「また角ちゃんの仕業かな?」
「『すみちゃん』?」
「ゆりちゃんの向かいのベッドのおじさんだよ。角ちゃんは目が大きくて、今はギョロギョロしてて怖いけど、若い頃は目の大きな可愛い子だったんだ」
「おじさん角ちゃん見なかった?!」
「見てないねー」
するとゆりちゃんは、可愛らしく指を咥えて、
「お兄さんにチョコレートあげなきゃ良かった」
そんなことを言うから俺も少し申し訳なく思った。
だから俺は、
俺は鎖骨も左腕を痛いし、キスもされて茫然としていたら、お爺さんは『あはは』と笑った。
「ゆりちゃん、お菓子注文したの明日届くから、それまで待ってるんだね」
「お兄さん……今度ゆりにチョコレート頂戴ね」
そう言ってゆりちゃんはとぼとぼと病室を後にした。
俺はというと、可愛いとはいえ、男の子にキスをされたからショックだった。
でも何故か嫌じゃなかった。
ゆりちゃんの唇はプニプニしてて柔らかかった。
「ゆりちゃんは可愛いからね」
俺はその言葉に我に返った。
「あれでゆりちゃんが29歳だなんて思えないよね?」
「はぁっ?!?!」
「発達障害ってそんなもんだよ」
お爺さんは夕飯の時間だからと迎えに来たヘルパーさんと病室に戻った。
ゆりちゃんが……29歳?!
俺より10歳も年上なの?!?!
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