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第11話 大部屋に大移動
ゆりちゃんにキスをされてから俺は変だった。
頭がボーっとするなんて、今までの俺にはない症状で、心理テストまで上の空だった。
ようやくギブスが取れたのは入院してから一週間後、暴力サド看護師さんにも慣れた。
暴力サド看護師さんはかかわらなければ然程問題は無かった。
今までは……。
「さて栄さん、今日から大部屋に移ってもらいます。あんたは症状軽いから……505に移ってもらうから」
大部屋……あんまり大部屋には移りたくはないけど、これも早くこの病院から出るためだ。
初老の暴力サド看護師さんは軽々と布団と掛け布団、枕を持ち上げて徒歩で移動を始めた。
「なに見てんだ、栄さん。あんたは消灯台と衣装ケースを運ぶんだ」
結局この病院は患者にもさせるんだなとあきれながら、消灯台の上に衣装ケースを乗せて505病室に移動をした。
そこにいたのは、ゆりちゃんと目玉がギョロギョロした『角地さん』とこの一週間遊びに来てくれた車椅子のお爺さんの四人部屋だった。
ゆりちゃんの姿を見たとき、俺の胸がドキリとした。
「お兄さん、一人の部屋から出れたんだ。あそこ見られてるからね」
「え?!」
今さらだけど問題発言を聞いてしまった。
暴力サド看護師さんはニヤリと笑って、
「個室には監視カメラと盗聴機があるからね。でもこの部屋では夜縛られないあんた、栄さんが監視役なんだよ。せいぜいみんなの面倒を見な」
そう言うと、ゆりちゃんと角地さんの間のベッドに布団を敷かれて、暴力サド看護師さんは去っていった。
どういう意味なんだろうか……そう考えていると、ゆりちゃんがパンダのぬいぐるみを抱っこしてこちらを見ながら言った。
「お兄さん、入院してからちょうど一週間でしょ。ゆりが病院のこと色々教えてあげるからお菓子とジュース分けてね」
「……お礼としてだからね、ゆりちゃん」
この中学生のような可愛いゆりちゃんは本当に29歳なんだろうか。
謎は深まるばかりだ。
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