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第19話『お兄さん』から『みっちゃん』への昇格
505号室に戻ったら、みんな掃除を放り出していた。
角地さんは元よりノートに何か一生懸命書いていたし、車椅子のお爺さん(永田さん)は布団を被ってうずくまっているゆりちゃんを眺めていた。
俺もどうしたら良いのか分からなかった。
もしかしたらいつものように、ゆりちゃんは笑っていると思っていたけど、気にしていた保護室の『亮』は拘束を強めにされてしまった。
すると角地さんは俺が持っていたポ◯キーとオレンジジュースに反応した。
「あんたぁ!!あたしの名前教えてあげるから、お菓子とジュースをおくれっ」
「うわぁっ何すんだよ……角地さん!!」
俺は角地さんにお菓子とジュースをあげるつもりは全くなくて、消灯台の上に乗せた。
一か八か俺は勝負をすることにした。
「……俺そういえば一週間前に誰かにチョコレート、一欠片貰ったんだった」
するとピクリとゆりちゃんが被っている掛け布団が動いた。
聞こえてることは聞こえてるんだ。
「誰だっけ?お礼したくて、ポ◯キーかオレンジジュース貰ってきたのに思い出せないなぁ」
角地さんは『あたしだ!あたしだよ!!』と品の悪いシールをペタペタついてるコップを差し出してきた。
するとゆりちゃんはの掛け布団がパサリと落ちて顔を出した。
「お兄さん……みっちゃん、ゆりにお菓子とジュース……、頂戴」
みっちゃん……あんまり言われたくない名前だけど、『お兄さん』より全然良い。
俺はゆりちゃんのうさぎと星のシールが付いた、やっぱり品のないプラスチックのコップを差し出してきた。
「うん、ゆりちゃんにならあげてもいいよ」
俺は500ミリのペットボトルのオレンジジュースをゆりちゃんのコップに1/3ついであげた。
「みっちゃんはなんでゆりと仲良くしてくれるの?」
……それは多分好きなんだと思う。
無邪気で、純粋で、裏表がない、幼い年上のゆりちゃんに惹かれてるんだ。
でもどうしても言えなかった。
「仲良くなりたいからじゃ駄目かな」
そう言うとゆりちゃんは抱っこしていたパンダのヌイグルミを俺に渡してきて、
「ゆりと仲良くするならタンタンとも仲良くしてね」
それはゆりちゃんの照れ隠しだと教えてくれたのは永田さんだった。
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