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第26話 パンダの赤ちゃん
「みっちゃん、差し入れは何が欲しい?」
「草加煎餅と烏龍茶。あとチョコレート一箱と参考書とハガキ」
ある切っ掛けで人はこんなにもかわるもんなんだなぁと思った。
ゆりちゃん……好きな人を甘いものばかり与えすぎるとしっぺ返しが来ることを知ったから、俺は差し入れをコロッと変えた。
「……みっちゃん、ここは病院なのよ?お勉強は治ってからすれば良いんじゃない?」
「違う。用意してもらいたいのは小学一年生の参考書、えっと……文字ドリル?」
「みっちゃんがそんなものどうするの?」
俺は母さんに無理やり文字ドリルを用意させた。
勿論使うのは俺じゃない。
俺が内緒でゆりちゃんに文字ドリルを渡したら、とてつもなく喜んでくれた。
ことの発端は昼のニュース。
下野動物園に待望のパンダの赤ちゃんが生まれた。
その赤ちゃんの名前を一般公募で募集するというので、ゆりちゃんは自分のパンダのヌイグルミ『タンタン』と同じ名前にしたいと言ってきたのだ。
そしてなんと、
「みっちゃん、ゆりの変わりに『タンタン』を応募して?!」
……19歳の男がパンダの名付け親に公募?!
あり得ない!!
俺の美学に反するので、ゆりちゃんに自力で出してもらおう大作戦を決行した。
でもゆりちゃんは俺より年上の29歳なんだけどね。
ゆりちゃんはホールで草加煎餅をパリポリ食べながら、文字ドリルを懸命にやっていたが……ミミズが這ったような文字であまりよく読み取れなかった……。
そして予想通り、公募には見事に抽選漏れだった。
「ゆり、一生懸命書いたのに!!」
それでもゆりちゃんのあまり見られない真面目な表情は、とても新鮮だった。
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