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第55話 手段なんて選べない
9月に入って俺の勉強は更に忙しくなったけど、ゆりちゃんへの想いは増すばかりだった。
そういえば俺は『精神科』というものを何もしらないでいたことに気が付いた。
何も知らなければ、どんなものでもゆりちゃんから弾かれてしまいそうで一瞬だけ怖くなった。
ゆりちゃんが俺を忘れても、振り向かせるから大丈夫だなんて宣言したけど、やっぱり人は忘れられたら怖いと思う生き物なんだなと思った。
でも俺のまわりには精神科に関わることを知っている人なんていない。
……ん?
いないわけじゃなかった!!
亮の兄貴の杉原は俺の元クラスメイトだ。
杉原なら何か知っているかもしれない。
俺は嫌だけど、母校の高校に杉原を待ち伏せすることにした。
本当はこんなことしたくない。
でも何とかしてゆりちゃんから俺は離れなくなかった。
距離はこれ以上置きたくない!!
ただ……学校側からは俺は多分煙たがれているだろうと思う。
有名な名門男子校から替え玉受験した生徒がいたら……迷惑だと思う。
せめて目立たないように……俺は6ヶ月ぶりに高校の制服に袖を通した。
なに、杉原なんて留年してもう一度高校三年生を俺と同じ年でやってるんだ。
俺もこれくらい出来なくてどうする!!
「みっちゃんっ?!……高校の制服なんて着て!!」
俺を玄関で見付けた母さんが驚いていた。
そうだよね、でも知りたいことを知っている相手に合うには手段を選んでいる暇なんて俺にはないんだ。
「ちょっと……学生の気分に戻るだけだって」
俺は逃げるように家を出て、母校を目指し歩き出した。
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