57 / 61

第57話 公園に三人

俺は杉原と『笹倉 叶』に案内されて、学校近くの公園の木陰のベンチに来た。 話をふるのは俺だから、一応適当に自動販売機から冷たい飲み物を買って二人に渡した。 「で、なに?……精神科の何が知りたいわけ」 「何も情報が入らない!!外からも、中からも……。どうしたら良いのか分からないんだ」 俺は情けないことに杉原に縋るような形を録ってしまった。 「どして今、栄が隔離病棟内を気にするのか俺には分からないんだけど?折角退院できたなら関わりたくないのがフツーなんじゃない?」 それは……杉原の言うとおりかもしれない。 「入院しているときは、外部のことは全く情報は入ってこなかった。唯一の情報源はホールにある一台のテレビと週に30分の面会だけだ。……一生を隔離病棟で入院する人間にしてみたら、それでもいいのかもしれないけど、俺は中の人と連絡が取りたいんだ」 「どして?」 「……好きな子が入院してるんだ。その子と連絡がとりたい」 俺は包み隠さずに話すことにした。 「俺が……替え玉受験して、彼女にもフラれて……病院で拘束されてるときに、知り合った可愛い年上の子。パンダとチョコレートが好きなんだ」 ゆりちゃん……退院してからまだ一年と経ってないけど、とても懐かしさを感じる。 「栄は男子病棟だったよな。じゃあ『男』?」 「そうだ。俺はあんなに巨乳の女の子が好きだったのに、今じゃあの可愛い彼が一番『好き』なんだ」 忘れられっこない。 あんなに酷い病棟の状況で、駄目だと言われたのに俺の病室に、心の中にすんなり入って来たんだ。 ゆりちゃんの『大好き』なチョコレートのように、甘く溶けて隙間から入ってきた。 「『好き』なんだよっ!!……どうしたって忘れようがないんだ」 「……」 「杉原、頼む!」 俺はその場に土下座して頼んだ。 「あわわっ……!!えっと、先輩?土下座なんてしなくても杉原先輩は教えてくれます」 「俺は叶以外には甘くないよ」 『笹倉 叶』は土下座した俺の横にしゃがみこんで、俺を立たせようとしてくれている。 でも俺の知ってる杉原は『甘くない』ことを知っている。 「いいです、杉原先輩には頼みません。先輩、今から杉原先輩のご自宅に行きお義母さまに聞いてみましょう」 は?! 「え?ちょっと叶ぇ?!」 「杉原先輩がこんなに薄情な人だとは知りませんでした」 ……『笹倉 叶』ってこんなキャラだったのっ?! 「分かった、分かったから叶!!」 「そうです、最初からそうしてくれてれば良かったんです」 俺の知ってる杉原も『笹倉 叶』も、噂のような『あやしい雰囲気』じゃなかった。 杉原も『好き』な子に振り回されて、『笹倉 叶』も普通に考える、まんまただの『一人の人間』だった。 「栄、俺は最低限の亮を聞かされてるから。叶に『変な亮』を聞かせられても困るんだよ」 「……亮は『笹倉を盗った兄貴が憎い、でも尊敬してる』って。……感情のコントロールができてないんだ」 「……」 「亮が?」 確かに亮は話してくれた。 亮は暴れてるだけじゃない、感情のやり場がないんだ。 「杉原の誕生日の日に話してくれた。俺は亮が何故から」 「いいよ、連絡の取り方教えてやる。叶を送ってから」 『何故同席させてくれないんですか』と怒る『笹倉 叶』を杉原と俺で送ってから、杉原の家に訪れた。 杉原の家も俺の家も人並みの家より遥かにデカいほうなのに、『笹倉 叶』の家は流石に『大豪邸』だった。

ともだちにシェアしよう!