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Ⅰ グッド・バイ④

「ウソだろーっ!」 だってメロスだよ、メロス。 (この男が……) 金髪碧眼のこの男が…… (メロスだってー!) そんなバカなッ。 しかし。 現実に。 目の前に。 男は確かに存在して、流暢な日本語まで話している。 『走れメロス』を執筆した太宰先生は、もちろん日本人。 ゆえにメロスが日本語を話しても、不思議じゃない。むしろ当然だ。 そして何よりも。 彼は、真っ裸。 一糸まとわぬ、生まれた時の無垢な姿なのである。 ……つっても、生まれた時とは比べ物にならないくらい成長してるよなぁ。 チラリと、密かな視線を這わせる。 一度見てしまうともう、ぷらーんと垂れ下がっている、脚の間の重量感から目が離せない。 (でか) 生まれたままの姿でありながら、無垢とはかけ離れたソコは、極めて凶悪だ。皮の剥けた竿の先端は、しっかりエラが張っている。段差もあるし、太い。 (今のままで十分、立派なのに、あれがもっと大きくなるんだよなぁ) あんなのが更に成長したら、どうなるんだろう? 「え……」 いま、ピクンっ……て。 ちょっとだけ、大きくならなかったか? 瞼をパチパチ。 まばたきして、確かめる。抱き上げる腕の隙間から、ソレを見下ろすと……ほら、やっぱり! また、ビュクンっ ……て。 少し上を向いて、大きくなってる。 …………………………って~★ なに反応してんだよっ。 人質となった親友セリヌンティウスの命を救うため、村から城まで十里の(みち)を、全裸で駆け抜けたお前だ。 今、一糸まとわぬ無垢な姿で現れたお前は、メロスにほかならない。 もう疑わない。 お前をメロスだと認めよう。 だから。 「メロス!」 下半身の中心で頭をもたげる雄の昂りを、どうか鎮めてくれ。 「アァ、いいゼェ」 心の叫びが届いたのか。 俺の体が下ろされた。懐かしい地面の感触だ。ずいぶん長い間、地面を踏んでいなかったような気がする。 ほっと息をついたのも、束の間。 グランと視界が反転する。 (なんで俺、空を見てるんだ?) 茜射す雲を。 空と俺の間に、金糸(きんし)がなびいた。 間近に映った紺碧の海。 深い瞳の色だ。 空と俺の間に、メロスがいる。 (俺ッ) メロスに組み敷かれてちゃってるよーッ!

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