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運命の段ボール

「高藤 龍馬様宛のお荷物です」 「はいっ」 「こちらに、署名をお願いします。…ありがとうございます」  少し大きい段ボールを受け取り、「ありがとうございます」と礼を言い家に入る。 「っしゃー!」  念願のグッズが手に入り、思わず叫ぶ。 「龍!、うるさいっ」  我が家の次女、晴香(はるか)現役女子大生にパソコンでレポートを作りながら怒られた。 「悪りぃ悪りぃ」  俺はそのまま部屋に戻り、早速しっかり貼られたガムテープを剥がし、念願のグッズを拝んだ。 「は?」  しかし、そこには世に言う『大人のおもちゃ』がいくつか入っていたのだ。 「は?」  俺の愛するいち好きグッズが、こんないやらしいはずがない! しかも、注文する時にしっかりとスマホを見て注文したのだから、間違いはない。あの宅配の兄ちゃんが荷物を間違えたんだ。 「なんだよ~。……てか、こんなもん実在するんだ…」  呆れとともに思ったのは、幻だと思っていたよく友達から聞く物が本当にあって、そんで、今目の前にあるという驚きだった。  興味本位から、球体がいくつも繋がってる、ぐにゃぐにゃ曲がる物を手に取った。明細書とかは無くて、多分友達とかに送ってもらったんだろう。パッケージも特に無く、ビニール袋に入ってある状態だ。 「…どう使うんだ?」  ヤバイ事をしているという自覚はありつつも、今まで少女漫画しか読んでこなかった俺は、こういう世界とは無縁で生きてきたから全くの無知なのである。セックスっていうことも、名前しか知らなくてどういう事をするのかも知らないし。あんまし、興味もねぇ。  とりあえず、曲げることしか出来なかった。 「おっ?、うちの上じゃん」  ふと住所を見たら、ちょうど上の階の番号だった。名前は『高藤 健太』だそうだ。  あれから一時間経っても電話が来るわけでも無く、宅配の兄ちゃんが謝りに来るわけでも無く、電話して宅配の兄ちゃんを呼ぶのも別に良いんだが、また待たなきゃなんねぇし、俺の場合は中身は姉貴の物ですって言えば済むけど、こっちの人が可哀想で仕方がなくなる。 よし、突撃しよう。  ガムテープを貼り直して、家を出ようとした。長女の翔子はウェブライターとして、一人暮らしをしているし、妹の麻衣は友達と夢の国に行ってて、母さんは同窓会で家にいるのは、晴香だけ。こいつにさえ見つからなければ、完璧だ。サラッとフラグを立ててしまったが、大丈夫だろうか…?。  ゆっくり歩いても、ドアの開け閉めで俺が動いてることは分かるはず。ならば、堂々とコンビニ行く感じで廊下を歩いた。俺は日頃から無言でコンビニに行くことがあるから、好都合である。  無事に何も言われず、家を出ることができた。そんで、階段で上の階に上がって、四〇二号室に向かった。別にうちのマンションにエレベーターが無い訳じゃなくて、近所の人とかに見られて伝達的に家族に知られると厄介になるから、あんまし使われてない階段を使っている訳だ。 「…高藤、ここか」  四〇二号室の前に立ち、本当にこれで良いのか少し葛藤した末。呼吸を整え、インターホンを押した。 「はい」  俺は驚いた。こういう物を使う人ってことだから、てっきりキモオヤジみたいな人で変な声だと思ってたけど、思っていた以上に優しい声だった。 「あの宅配便の手違いで、お宅の荷物が届いてしまったのですが…」 「あっ、そうですか。少々お待ちください」  数えてねぇけど四十秒くらいで、身長高めの綺麗に整えられた顎髭を生やした三十代後半くらいのイケメンが出てきた。例えるならば『浜辺の涙』の高森 真也みたいな顔だな。つまり、イケメンだ! 「中身は見てないから。で…君は…」 「すみません…。俺のやつだと思って…その…」  案の定、さっきまでの表情と裏腹に表情が曇った。  ちょっとの沈黙が続いて、俺の後ろを女の人二人が通った。話が盛り上がってたのか知んねぇけど、その二人はクスクス笑ってた。 「…ちょっと入ってくれる?。もちろん、何もしないから」  俺はそのまま誘導され、廊下を突っ切りリビングに入った。このマンションは、同じフロアでも部屋数とか大きさとかが違うからここは俺らの部屋より少し小さい。男の一人暮らしには丁度良いのかもしれんが。 「ごめんね。前ね、深夜ぐらいに彼氏と玄関外でキスをしてるのを隣人さん見られてしまってね。こんなこと言われてもね…。ごめんね。お茶で良い?」  キッチンに立って、俺に背中を向けている姿で話す高藤さん。 「あ、お構い無く。…大変ですね、人付き合い。というか、彼氏さんいるんですね」 「まあね。もう、別れたんだけどね」  白のところに緑のストライプのコップに麦茶が出てきた。 「…すみません」  気まずい。究極的に気まずい。 「全然。慣れてるからさ。ていうか、ごめんね。怖いよね。知らない人の家に上げされられて、しかもそいつが変態なんだからね」  正直そうだ。この人の感じからして、襲われるとかは無いだろうが、未知の世界すぎてちょっと怖い。  どう返したらいいのか分かんなくて、何もできない俺を見て。 「ここに入ってもらったのはさ、一つ質問がしたいからなんだ。これを見てどう思った?。率直に教えて欲しいんだ」  とてつも無く迷った。相手を傷つけないように、かつ自分の思ってることを伝える。 「えっと、正直驚きました。引いたとかじゃ無くて、びっくりしたんですよ。俺こういうの初めて見たんですよ。だから、興味があって、どういう人が使ってんのか気になっちゃって、来たんですよ。そんで、思ってた人じゃ無くて驚いたっていう感じです。あと、正直怖いです。何もされないの貴方の感じからして分かってるんですけど…」 「ごめんね。ちなみに、どういう人だと思ってたの?」  長机を挟んで俺の前に座る。 「太ってて四十代後半くらいの変なおじさんだと思ってました」 「じゃあ、二つは当てはまるな…」  言った後に、飲み物をすすった。 「えっ、四十代後半なんですか?」 「そんなに驚くか。今年で四七」  少し照れたように言う。 「全然見えませんよ。てっきり、三十代後半くらいだと。あと、変なおじさんではないですよ。カッコいいですし」 そう、高森真也のように! 「それって、こういう物を僕が使ってるって知って言ってるよね?」  高藤さんの横に置かれた段ボールから俺が部屋で触った球がいっぱい繋がっている奴を俺に見せつつ言った。 「…でも、カッコいいのは変わりないですよ」  ため息をついて、 「君みたいな純粋な子が一番困るんだよ」 「すみません」 「謝んないでよっ。ごめんね、わざわざ部屋まで入れちゃって。僕の気も済んだから、もういいよ。ありがとう」  高藤さんは立ち上がり、玄関に向かう。  あれを見せられた俺は、正直あれをどう使うのかがとてつも無く気になってしまった。ヤバイことだと分かっているが…。あとでググればいいことぐらいはわかってるけど…、けど…。 「あのっ」

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