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特性オムライス

「おかえり~」  力をなくして無言で入って、そのまま部屋に直行する。ベッドに横になってぼーっとしてたら、 「お兄ちゃん大丈夫?」  麻衣の声がする。 帰ってきたんだ…。 返事もする気力がなくて、聞き流した。そしたら、ドアは無言で閉まった。 今は一人が良い。人生初の恋が、こんなにもすぐ終わるだなんて…。泣いてる自分までもが馬鹿馬鹿しい。  そっから、ちょっと時間が経って、またドアが開いた。 「龍の好きなオムライス作ったからこっちおいでっ」  俺の大好物オムライス。いち好きの主人公、佐々木いちごが作る特性オムライスが公式でレシピが発表されてから、そのオムライスが俺の大好物になった。それから、俺の誕生日はケーキじゃなくて特大特性オムライスである。漫画ではオムライスの上にケチャップで『スキ』と書かれてあるから、俺も晴香に頼みいつも書いてもらってる。はたから見るとブラコンに見えるだろう。 でも、今は食欲すらもない。 「いらない」  声があんまし出ないなか、つぶやくみたいに言った。 「…あっそ」 悪いことしたかな。でも、今の俺はそれどころじゃねぇ。  数分ぐらいが経った後、部屋のドアを誰かがノックする。 「入るわよ」 母さん。帰ってたんだ。  ゆっくり入ってきて、真っ暗だった部屋の電気を付けて、俺の部屋の中心にある丸テーブルの近くに適当に置いてある青い座布団に座る。俺の顔を全く見ないまま。 気い遣ってくれてんのかな。 「龍馬って今好きな人いるでしょ?」 「えっ」 数十分前までは。 「晴香から聞いたけど、真昼間からシャワー入ったんだって?。珍しいわね。あんなにお風呂が嫌いな龍馬が一日に二回もシャワーに入るなんてね。しかも、なんか叫んでたっていうのも聞いたし」 「別に変なことはしてねぇよ」 しちまったけど…、母さんに言えねぇよ。 「まぁ、少女漫画がいくら好きでも、恋愛くらいはするわよね。…その顔からして、振られたの?」  俺は思わず、涙の後を必死に拭った。 「なんて振られたの?」 そんなこと聞くか?。傷口に塩を塗らないでくれよ…。 「…迷惑だって」 「…そう。その人どんな綺麗な人なの?。龍馬は好きになる程なんだから、相当綺麗なんでしょうね」 「綺麗か分かんねぇけど、カッコいいよ。声とか手とか全部がなんか落ち着くんだよな」 思い出しちまうよ。あの声、手の感じ全てを。 「そんなに好きなら、もう一度会いに行ったら?。それで、ダメならボロボロで帰ってきなさい。私が抱きしめてあげるから」 母さんのこういう優しいところが好きだ。俺はマザコンなんだろうか。 「…無理だって」 「どうして?。その人にはもう相手がいるの?」 「いねぇと思うけど、迷惑だって言われたんだぞ」 また、同じことを言われるだけに決まってる。もう、傷つきたくねぇよ。 「きっとなんだけどね、突き放してるんじゃないかって思うのよね。女の勘ってやつね」  微笑む母さんの言葉に、揺らぐ俺。 「まぁ、行くなら晴香が作ったオムライス食べて行きなさいよ。せっかく龍馬のために作ってくれたんだからね」 「おぅ」  そう言って母さんは部屋を出て行った。 『突き放す』。母さんが言ったことが、また俺に希望を見せる。無理だって分かってんのに。  俺は部屋を出て、リビングに入る。 「晴香、オムライスくれねぇか」  リビングには、母さんと晴香は机の椅子に座り、麻衣はソファでスイッチをしてる。 「待ってましたよ。ほいっ、特性オムライスっ」  そこには『スキ』ではなく、『バカ』と書かれてあった。  俺は晴香の顔を見た。 「今の龍にはそれがお似合いだよ」  ニヤニヤしながら俺を見る。 「…ありがとよ」  そのまま部屋に向かって、オムライスを食った。 早く食って、高藤さんに会いたい。って、俺、高藤さんに夢中じゃん。

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