4 / 8

第4話

こんなおっさんのーー西辻はもう30半ばだーー性器を触っても、普通の男子高校生なら気持ち悪いだけだろう。柿本も早く汚れた手を洗ってくればいい。それから椅子に縛られた手脚の縄を外してもらおう。 「柔らかい? なんで、どうして硬くない?」 しかし、柿本は自身の手の平と、西辻の性器を交互に見つめながら、呆然と呟く。まるで実験に失敗してショックを受ける科学者の様だ。 「あのなぁ……いきなりこんな事されたって、勃起しないぞ?」 西辻も段々とこの奇妙な環境に慣れて来て。真面目に柿本を諭すが。 「だって、男のコレって、気持ち良くなれば硬くなるもんだろ」 柿本は西辻の下半身を指差して断言する。べたべたと擦る柿本の行動は、何も分かっていない子供の考えた愛撫だったのか? それなら厳しく叱って、理解させないと。 「きみは、とにかく身体を触れば、気持ち良くなる、とでも思っているのか?」 むすっとしている柿本と向き合って語り掛ける。 「まず第一に、縛り付けられて触られても、快楽でなく、恐怖心だけだ」 まぁ、世の中にはこういった行為が性的嗜好な人間もいるが……それを言ったらまた勘違いするか。 「それに何よりも、好きな人、想いが通じ合っている人と触れ合う行為でなければ、気持ち良くなんてならない」 西辻はゆっくりと単語を選んで、本当のセックスとはどんなものか、を教える。 確かにこの状況は、この間の個人授業を思い出すな……授業内容は英語ではなく保健体育だが。 そして「男同士だから気持ち良くない」とは言わずにおこう。 もしも柿本が本当に同性愛者だとしたら、ショックを受けるだろうから。 「でもクラスの奴等は、誰でもいいからセックスしてー、とか言ってるよ?」 床に座って頬杖をついた柿本は、上目遣いで問い掛ける。 「それは……まだ本当の恋愛を知らない、子供だからで」 「じゃあなんで風俗とかあるの」 ズバリと問われて、回答に詰まった。 「80過ぎの爺さんが看護師の尻触ってる、ってニュースでやってたよ」 また返答に困った。男の性欲について真面目に説明するのは、とても難しくて。 「それにっ……俺はあんたを好きなんだから! あんたを好きな人間が触れば、あんたも気持ち良くなるだろ!」 勢い良く立ち上がって、柿本は駄々(だだ)()ね始めた。しかし、なんだその理屈は。

ともだちにシェアしよう!