5 / 266
第5話
「う…嘘……」
城の扉を開けてすぐ、広がっていた光景はとても無残なものだった。
鼻をツンと刺激する腐敗臭が漂う。
いつも笑顔で挨拶をし、城を守ってくれていた兵士たちは見るも無残なまでに切り刻まれ、何十人もの兵士の死体が転がっている。
目の前の光景と鼻をつく臭いに耐えられず、シエルはその場で嘔吐した。
「はぁ……っ、ぅっ………!
………母様っ……、父様……っ!」
口を抑え、皆が逃げたはずの玉座の間(マ)へ足を運ぶ。
そして、震える足に「とまれ」と念じながら、力を入れて扉を開けた。
「う…………そだ……………」
玉座の間(マ)にある大きなステンドグラスからは大量の陽が差し、照らされているその先には、2つの並んだ玉座。
そして、そこには胸にナイフを突き刺され、
座ったまま死んでいるメジエール国王と王妃の姿があった。
玉座の周りを国民の死体が取り囲んでおり、
全員が胸の上で腕を交差していた。
彼らは皆、支配下に下ることに抵抗したのだ。
この平和な国の誇りにかけて、
彼らは死を選んだ。
シエルは玉座に近づき、
大好きだった母の屍に触れた。
「うわぁっっ!!」
触れた箇所の肉が崩れ、
手にドロっとした感触があった。
美しかった母の顔は鬼の様に恐ろしく、
シエルはこの現状を受け入れられなかった。
こんな無残な殺し方をする人間が、
この世に存在するというのか?
「殺してやる………。殺してやる、殺してやる殺してやるっっ!!!!!」
シエルは復讐を胸に誓い、全員の安らかな眠りを願いながら、城に火をつけて、弔いを上げた。
ともだちにシェアしよう!