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第8話
「あの…っ、お兄さんっ……!名前は……」
シエルが引き止めると、
少年は立ち止まり、振り返ってこう言った。
「アルベール……」
「………え?」
「アルベール=ヴィクトリアだ。」
シエルは月明かりに照らされたその少年の顔を、はっきりと脳裏に焼き付けた。
バイオレットで切れ長の瞳。
すっと通った鼻筋、薄い唇。
こげ茶色のサラサラとした髪。
そして淡々とした冷たい声。
心臓がギュッと掴まれたような感覚に陥った。
シエルは幼いながらに、初めて会ったこの男に、心を奪われてしまったのだった。
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