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第11話
シエルはこそこそと周囲に視線を配らせながら、市場へ向かった。
最近、何かネットリとした視線を感じるのだ。
夜中に出歩きさえしない限り、人攫い屋には捕まらないとは分かってはいるのだが、それでもこの気味の悪い視線は気分が悪い。
「すみません。お肉ください」
「はいよ!いつもありがとうね、お嬢ちゃん」
とても綺麗な容姿をしているシエルは頻繁に女性と間違われるが、嫌な気分にはならず、逆に悲しくなってしまうのだ。
(いっそ女だったらいいのに……。)
2年前に出会ったアルベールのことが忘れられず、結局あれから一度も会えていなかった。
あの美しい少年はどこで暮らしているのだろうか。
もう会えないのだろうか。
もし自分が女であれば、アルベールともう一度出会って、恋というものを始められたのではないか。
そう思いながらもシエルはさっさと買い出しを済ませ、宿に戻った。
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