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第36話
アルベールの出て行った扉を見つめて、シエルは未だにドクドクと鳴り続ける胸をぎゅっと抑え、ベッドに潜った。
両親を殺された。
国を滅ぼされた。
奴隷にされた。
狼にだって犯されたし、自分の吐瀉物を舐めさせられた。
そんなに酷いことをされたのに、2年前に恋をしたあの時のアルベールの影をまだ探している自分自身に、シエルは自嘲した。
あの瞳に自分が映っていることに、嬉しさを感じている。
優しく触れられた時に、胸が踊りそうになる。
もしかしたら、男の自分でもアルベールに愛してもらえるのではないかと、心の中で願っている自分がいる。
一方で、憎くて仕方がなくて、殺したいと思っている自分もいるのだ。
大切で大好きだった家族を殺されたのだから。
自分の気持ちに整理がつかなくて、シエルは枕に顔を埋めた。
ここ三日ほど横になることさえ許されていなかったため、ベッドで横になれるなんて夢のようだ。
シエルはすぐに深い眠りに落ちてしまった。
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