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第38話
シエルはアルベールを何と呼べばいいのか悩み、一番恥ずかしくなくて、これなら許してもらえそうだと口を開いた。
「アル…様?」
「……まぁ、それならいい。来い、シエル。」
「それ、何…?」
「しばらく飯食ってないだろ。吐かれても困るからな」
アルベールが鍋の蓋をあけると、そこには湯気の立つ美味しそうなたまご粥が入っていた。
アルベールはれんげに一口分の粥を掬い、ふぅっ…と息を吹きかけてから、シエルの口元へ持っていった。
「美味しい…!」
口に含むと、優しい味が広がり、その味も匂いもシエルの食欲を誘った。
アルベールが何度も粥をシエルの口元に運び、シエルは嬉しそうにそれを食べた。
前はアルベールに与えられる食事が苦痛で、無理矢理食べさせられたのに、今回は食事がスルスルと喉を通ることにシエル自身驚き、それと同時にアルベールの優しさに疑問を持った。
奴隷であるシエルに、こんな優しさを見せてどうするのか。
冷酷非道なこの男は、何を企んでいるのか。
疑わないといけないことはたくさんあるはずなのだが、シエルは今だけかもしれないアルベールの優しさに縋った。
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