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第56話

「ぁ…、アル様!降ろしてくださいっ!」 「降ろしてもおまえ、また転けるだろう?」 「でもっ…!」 アルベールの腕の中に自分がいるなんて信じられなかった。 いつもと違う角度で見える整った顔立ちや、自分を抱く逞しい腕にバクバクと心臓が鳴る。 「いいよ。今日だけ特別だ。あとでたっぷり可愛がってやる」 「〜〜〜〜ッッ///」 いつものアルベールと違いすぎて、 『もしかしてアルベールじゃないのでは?!』 とシエルは甘い雰囲気にふわふわしていた体を、ギョッと固まらせた。 シエルがそうやってあたふたしている間に、新しい部屋に着いたようで、アルベールは大きな扉を開けて部屋に入った。 着いた部屋には壁一面の大きな窓と、時計、それに個室のシャワーとバスタブに、トイレまで付いていた。 家具は相変わらず、部屋のど真ん中に天蓋付きのキングサイズベッドが置いてあるだけだった。 シエルはキョロキョロと部屋を見渡して、最後にアルベールに視線を向けた。 「これからこの部屋で待っていろ」 そう言って、またシエルに繋がれた鎖をベッドにくくりつけた。 足枷の鎖はトイレまでは届きそうな距離で、前よりも少し自由にはさせてくれたようだ。 部屋から出れなくとも、時間や光があるだけで、今のシエルには十分すぎるほどで、シエルは外をじっと見つめていた。 「朝………だ」 「あぁ。まぁ正確には昼だが。」 「ふぅっ………、ヒック……」 シエルは光が見れて嬉しさのあまり泣き出してしまった。 その姿はとても美しくて、アルベールはそっとシエルをベッドに押し倒した。

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