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第62話

「あ…、あの、お粥食べてもいいですよ」 シエルが恐る恐る声をかけると、奴隷は首を振って一歩後ろへ下がった。 「バレてしまったら大変ですので…。私は遠慮させていただきます……」 「そっか……」 「シエル様も、きちんとお食事召し上がってくださいね。それでは、失礼いたします」 奴隷は扉を開ける前に、深く頭を下げてから部屋を出ていった。 先ほどの話を聞いて、シエルは自分が随分と恵まれていることに気付かされた。 与えられた食事も食べないなんて、そんな贅沢を言える身分ではないなと、誰もいないことを確認してから、お皿にそっと顔を近づけて舌を伸ばした。 すると、クスクスと笑い声が聞こえ、驚いて体を跳ねさせたシエルは、恐る恐る扉の方を見た。 「どうした?そのまま食えばいいじゃないか」 そこには腕を組んだアルベールが、扉に背を預け、こちらを見て笑っていた。 「いつも残してたのにどういう風の吹き回しだ?犬食いするくらいなら食べないと踏んでたんだが」 「………」 「腹が減ってさすがに耐え切れなかったか?そのうち、本当の犬にでもなるかもしれないな」 「うるさいっ!!」 シエルがアルベールを睨み、声を張り上げると、アルベールは興味深そうにベッドへ近づいて、シエルの顎を掬った。

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