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第85話
「アルベール様、クライトマン皇帝がお見えになっております。どうされますか?」
「あぁ…。応接室に通しておいてくれ」
「畏まりました」
また厄介なのがきてしまった。
アルベールはシエルのことで悩んでいる頭を、さらに悩ませた。
エルヴィド=クライトマン。
彼は隣国である【ティエンヌ】を統治している若い国王だ。
今まで同盟を組み、互いの国、また、領土を攻め入らないという協定を結んでいた。
しかし、エルヴィドはここ最近、どうにもその同盟を切りたいと思っているらしい。
何かとこちらへ足を運んでは、同盟の白紙、または、協定内容の改訂を求めてきている。
エルヴィドがこの話を持ちかけてきたのは、あのオークションがあってからのことだ。
アルベールは、エルヴィドの同盟決裂という提案に、シエルが絡んでいると考えていた。
エルヴィドは無類の綺麗物好きで有名だ。
そして、あのオークションでは完全にシエルを狙っていた。
アルベールが10億という大金を提示しなかった限りは、確実にエルヴィドがシエルを落としていたのだろう。
そして楽観的な彼は、自己の欲求のために国を犠牲にする可能性が大いにある。
早めに話をつけなければ…。
アルベールは早足で応接室に向かった。
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