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第96話
エルヴィドが部屋から去り、シエルは写真を胸に抱えながら啜り泣いた。
自分を生み、目一杯の愛を我が子である自分に注ぎ、そして自分のことを守るために、死んでしまった母親を思い出して………。
大好きな母親を殺したのは、ペリグレットの王であるアルベールだ。
でも、アルベールはシエルの初恋の男で、恨むことなんてできなかった。
両親を殺されてなお、こんな気持ちを抱いていると知ったら、きっと神様は怒るのだろう。
それでも、アルベールが時々見せる人間味のある表情を見る度にドキドキした。
アルベールが名前を呼んでくれることに喜びを感じた。
何度も死んでやる、殺してやると思ったが、
アルベールと一緒に過ごす時間がどんな形であろうと嬉しくて、
アルベールと体を重ねられることがどんな理由であろうと幸せで、
シエルの心は日を重ねるごとに、どんどんアルベールに支配された。
そんな大切な彼のことを、自分の手で刺してしまったのだ。
意識が朦朧としていたとしても、それは完全な裏切り行為で、もう彼に合わせる顔なんてない。
「母様………、僕…どうすれば…………」
神様は許してくれなくても、きっと母親なら自分の恋を応援してくれるだろう。
シエルは星空を見ながら一筋の涙を流した。
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