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第97話
アルベールは今どうしているだろうか。
自分が付けてしまった傷は、塞がったのだろうか。
もう二度と、名前を呼んでくれないだろうか。
彼と体を重ねることは、許されないのだろうか。
一度涙が零れると、たかが外れたように次々と涙が溢れ出した。
アルベールの綺麗な顔を、
氷のように冷たい瞳を、
時折切なそうに『シエル』と呼ぶ声を、
どうやって自分に愛撫してくれているのかを思い出して、シエルはベッドの上で一晩中泣き続けた。
いつの間にか夜が明ける。
「シエル、おはよう。もう朝だよ。調子はどう?落ち着いた?」
「うん…」
ドアの開く音と、カーテンをめくる音が聞こえ、シエルは柔らかな朝の日差しに照らされた。
エルヴィドはベッドの隣にある椅子に腰掛け、テーブルに持ってきたティーセットを置いて紅茶を入れた。
「シエルはレモンティーかミルクティー、どっちがいいかな?」
「……ミルクティー」
「わかった。ちょっと待ってね」
カップに紅茶を注ぐ音が心地良い。
シエルが布団から顔を出すと、エルヴィドは驚いたような顔をして、おしぼりをそっとシエルの目元に当てた。
「沢山泣いたんだね。跡が付いてる」
シエルは温かいおしぼりを受け取り、目元にそっと当てて目を休ませた。
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