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第98話

ミルクティーが注ぎ、エルヴィドはシエルの体をゆっくり起こして背中を支えた。 シエルの震える手にカップを持たせ、エルヴィドは自分の手を重ねた。 シエルはアルベール以外に触られることに不快感を覚え、弱々しくも抵抗したが、エルヴィドは気にせずにシエルの手に触れ続けた。 「俺が怖い?」 「ちが…くて………」 「ヴィクトリアがいいの?」 「〜〜っ!」 エルヴィドに言い当てられて、シエルが体を揺らすと、エルヴィドはクスクスと可笑しそうに笑いながら、シエルの頭を撫でた。 「あんな冷酷非道な男のどこがいいんだか。」 「………」 「全く。君は不思議だね」 カップの縁がゆっくりとシエルの唇に当てられ、少しずつ傾けられた。 口の中に流れてきたのは、ミルクの香りが漂う温かい紅茶だった。 まともなものを口にするのは久しぶりで、シエルは思わず綻んだ。 「やっぱりシエルは、笑ってた方が可愛いよ。ね?俺の前では笑っててよ」 エルヴィドの切なそうに微笑む顔は、アルベールのものとは違った。 けれど、何故か少し胸が痛んだシエルは、背中に回るエルヴィドの腕に遠慮がちに身を預けた。

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