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第102話
とても幸せな夢を見た。
大好きな人が目の前で微笑んで、
大好きな声で僕の名前を呼び、
そして優しく僕を抱きしめて、
慈しむように、僕の唇にキスを落とす。
「ア…ル………様………」
陽の光を浴びて、仕方なく目を覚ます。
夢だとわかっていても覚めたくなかった。
ずっとあの夢の中に居たかった。
シエルはむくりと立ち上がり、ベッド横に置いてあるスリッパを履いて部屋を出た。
廊下は長く、やはりお城の中はどこも迷路のようである。
少し歩き慣れた通路を歩いて広間へ向かった。
エルヴィドに攫われてから、一週間は経っただろうか。
シエルはよくアルベールのことを考えるようになった。
時々鎮静効果のある注射をしてもらったり、エルヴィドに抱かれたりしながら、少しずつ薬の依存症は治まり、禁断症状も出なくなってきている。
けれど、シエルの素直な身体はアルベールの熱を欲していて、毎日窓の外を見つめては、アルベールが迎えに来るのを待っていた。
「シエル、今日も迎えを待っているの?」
「エル……」
広間の扉の前にある大きな窓から外を見つめていると、後ろからエルヴィドがコートを掛けてくれた。
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