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第117話
「シエル、どうしたの?」
エルヴィドが優しい声で尋ねると、シエルは目に涙を溜め、エルヴィドに抱きついた。
エルヴィドもまた、シエルの背に腕を回し、よしよしと宥めながらシエルが話し出すのを待った。
「アル様には…婚約者がいたの……?」
シエルの言葉に、エルヴィドは首をかしげた。
ヴィクトリア家に婚約者などいただろうか?
ミリィが勝手に広げ回っている噂なら聞いたことはあるが、確実な情報としてそのようなことは聞いたことがない。
恐らくミリィに言われたんだろうなと、エルヴィドは苦笑しながらシエルの頭を撫でた。
「それ、嘘だよ」
「……ぇ?」
「ミリィちゃんが勝手に言ってるだけ。ヴィクトリアには婚約者なんていなかったはずだよ」
「あっ…、で……でも………」
ホッとした顔をしたと思えば、またすぐに俯いてしまうシエルに、まだ何か不安があるのかと、もう一度耳を傾ける。
「お…女の子がいいって……。僕……おっぱいないし…、柔らかくもないし…、おちんちん付いてるから……嫌だって……」
「へ?」
性別という、そんな根本的なところで悩んでいるのかと、エルヴィドは呆気にとられた。
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