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第120話

──── 14年前、ティエンヌの王宮。 エルヴィドがまだ6歳の頃。 そして、シエルが生まれる数日前の話だ。 メジエールの国王と王妃が、直々にティエンヌへ訪れたのだ。 なんでもエルヴィドの父はメジエール国王と旧友らしく、メジエールの王と王妃の子がもうすぐ生まれるから祝おうという、エルヴィドの父からの突然の提案だったらしい。 相手方は快く承諾してくれ、今こうやって、ティエンヌの城まで来てくれたと言うわけだ。 当時まだ6歳で、人見知りだったエルヴィドは自室にこもろうとしていたが、父に引っ張り出され、一階のホールへと連れられた。 「あら?あなたがエルヴィド君?」 「……っ!!」 突然後ろから声をかけられ、エルヴィドは驚いて肩が跳ねた。 声をかけてきた本人は、可笑しそうにクスクスと笑った。 振り返るとそこには、優しい雰囲気の、とても美しい女性が立っていた。 「驚かせてしまってごめんなさい。 私はメジエール王妃のマリア=ランベリクです。 君はクライトマン皇帝の息子さんよね?」 暫く見惚れて固まっていたエルヴィドに、マリアは首を傾げた。 エルヴィドは咄嗟に頷いた。 マリアはニコッと微笑んで、エルヴィドと同じ目線になるようにしゃがみこみ、話をした。 その時間は楽しくて仕方がなかった。 生まれてすぐ母親を亡くしたエルヴィドは、母親がいるとこんな感じなのかなと感動したのを覚えている。

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