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第126話

エルヴィドはいつのまにか眠っていて、遠い昔の夢を見ていた。 やはり、シエルにとっての幸せを優先してやることが、自分が唯一してやれる事だと思った。 目を開けると、パチクリとした大きな瞳が、こちらを見つめていた。 「シエル…っ!起きてたの?!」 「エル…。どうして、泣いてるの……?」 「え……?」 自分が泣いていることに気付かされたエルヴィドは、驚いて顔を拭うが、溢れてくる涙を止めることはできなかった。 シエルは心配そうな顔で、エルヴィドの顔を覗き込み、人差し指でエルヴィドの涙を掬った。 思えば、ここ数日で見てきたシエルの喜怒哀楽、全てがマリアに似ているなと、エルヴィドは泣きながらシエルに微笑んだ。 「やっぱり君も、君の母親も、俺にとっては美しくて儚い……、手の届かない存在なのかな……」 「僕と………、母様………?」 シエルの不思議そうな顔に、エルヴィドは可愛いと瞼にキスを落とした。 「ごめんね、シエル。本当は君の母親に一度会ったことがあるんだ。嘘をついてごめん……」 「そうなんだ…。母様、綺麗な人でしょう?」 「あぁ。とても…、とても美しい女性だったよ」 はらりはらりと涙を流すエルヴィドを、シエルは優しく胸の中に抱きしめた。 エルヴィドは長年押し込めてきた感情を、涙に変えて全て心の外に溢れさせた。 シエルはエルヴィドの涙が止まるまで、一晩中ずっと抱きしめ続けたのだった。

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