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第138話
アルベールはシエルを隔離していた部屋に向かい、シエルをベッドに下ろした。
シエルは「はっはっ…」と浅い呼吸を続け、目も焦点が合わずに、視線を彷徨わせていた。
「シエル、これで大きく息をしろ。………そう、良い子だ」
口元に小さな袋を当てられたシエルは、アルベールの指示通り、大きく深呼吸をした。
アルベールはシエルの顔に飛び散った血を、蒸しタオルで拭ってやり、呼吸が落ち着くまで、抱きしめながら背中をさすった。
血を見て怯えるシエルを見て、あの光景を克服できないと、戦争になった時に危険だと思った。
戦争では、あの牢にいる人間よりも力強い奴が、あんな数とは比にならないほどに殺し合いをする。
ペリグレットは今や大国となり、多くの国に狙われている。
だから、アルベールはいつかシエルを戦争に巻き込んでしまう時がくることを懸念したのだ。
呼吸リズムを戻し、気を失うように倒れたシエルは、眠りに入っても呼吸は浅いままで、アルベールは酸素ボンベをシエルの口元に寄せた。
「シエル、悪かった……」
お仕置きだと称して、シエルのトラウマを掘り返すようなことをしてしまった謝罪を、アルベールは寝ているシエルにしか、言うことができなかった。
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