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10章【拒絶】

翌朝のことだ。 「……ぅ………」 「シエル、起きたか?」 シエルが身じろぎ、一晩中添い寝していたアルベールは、すぐさま声をかける。 しかし、シエルはじっと上を見つめながら、アルベールの方を見ようとはしなかった。 アルベールはシエルの顎を掴み、自身の方に顔を向けさせた。 「………あ、ゃ、やだっ!」 「おい。何無視してるんだ」 怯えて拒否行動をとるシエルに、アルベールは眉間に皺を寄せ、シエルを引き寄せた。 「わっ…!ゃ、やめてっ!!怖い!!」 「今さら何言ってる。ご主人様に向かって随分な口の聞き方だな」 「や、やだ!!誰かっ!!助けて…っ!!」 「お前本当にさっきから……。そんなことして許されると思ってるのか?」 本気で鳥肌を立てて嫌がり、他者に助けを求めるシエルを見て、アルベールはおかしいと思いシエルの顔を掴んで目を合わせた。 「お…まえ………」 シエルの瞳は涙で薄い膜を張り、今まで通り透き通るような綺麗な色をしていた。 しかし、その瞳からは、アルベールが目を合わせた時に必ず感じる激情が感じられなかった。 代わりに強く感じるのは『恐怖』だ。 「ご…ごめんなさ……、お願い、やだ……っ」 アルベールを視界に入れたシエルは、ビクビクと震えて涙を流した。 今無理に近づくのは逆効果だと悟り、アルベールはシエルをベッドに繋いだまま、部屋を後にした。

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