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第140話
「ど…して……?」
アルベールが出て言った扉を見つめ、シエルは自分がアルベールを拒否したことに驚いた。
今まではアルベールを見ると、胸が締め付けられるような感覚に襲われ、アルベールに触れられることに喜びを感じていた。
だけど、さっきはアルベールが触れてくれたのに、あんな近くで見つめあったのに、心も体も『恐怖』という感情に包まれて、無意識にアルベールを拒否したのだ。
今だに震える体が、その事実を物語っていた。
怖い。
アルベールが怖い。
「………好きなはずなのに、どうして?」
シエルはショックのあまり、地下牢での記憶を全て無くしていた。
シエルの時間は、エルヴィドの城からここへ帰って来た時点で止まっているのだ。
もちろん、シエルにとっては、その方が良いのであろう。
しかし、その時の記憶がないシエルは、自分がアルベールを拒絶してしまう意味がわからなかった。
「アル様…」
アルベールが目の前にいなければ、先ほどのような恐怖に包まれる感じはなかった。
ずっと会いたくて堪らなかったアルベールがすぐそこにいるのに、会うことができなくてもどかしい。
シエルは枕に顔を伏せた。
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