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第143話

シエルが悩む一方で、アルベールも書斎で静かに頭の中を落ち着けていた。 自分がトラウマを掘り返すようなことをしたことで、今回シエルに恐怖心を与えるという結果になってしまったのは、十分に承知している。 けれど、アルベールは、そうなると分かっていても、自分は同じことをしてしまったんじゃないかと思っていた。 殺し合いを見ることに慣れてもらおうなんて、ただの建前だ。 本当は、エルヴィドや自国の兵に体を許したシエルが許せなかったのだ。 当たる相手が間違っているのなんて、当然分かっているのだが、アルベールはその怒りの矛先を、何故かシエルに向けてしまう。 優しくしてやりたいという気持ちとは裏腹に、アルベールの中にはシエルの心も体もボロボロにして、自分に縋らせたい、壊してやりたいという気持ちが潜んでいた。 シエルはあまり笑顔を見せない。 その代わりに、とても綺麗な、透明できらきらと輝く涙を流すのだ。 それが見たくて、自分だけのものにしたくて、何度もシエルに酷いことを繰り返した。 どれだけ酷いことをしても、シエルが自分に向けてくる熱い視線は変わらなかった。 アルベールにとってそれは、シエルは自分のものであると確認できる、唯一の方法だったのかもしれない。

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