144 / 266

第144話

けれど、今回の非情な行いは、遂にシエルから一つの感情を奪ってしまった。 きっとこのまま、シエルを傷つけるような行動を繰り返すと、シエルはどんどん自分を拒絶していくだろう。 アルベールは自分がどうすればいいのか悩み、腕を組んで頭を伏せた。 「失礼します」 「あぁ、おまえか。どうした?」 ノックの音と共に入ってきたのは、使用人であるバルトだった。 バルトは使用人の中でも優秀で、その頭の良さから、軍師として戦争の指揮を取ってもらうこともあった。 同盟契約や取引などにもいつも同席させ、国の資金や一等地のオークション会場等の運営まで、全て任せており、アルベールに絶対服従の、信頼の置ける男である。 今回もまた新たな取引の話かと耳を貸したが、今回は全く別件の話だったようだ。 「廊下で奴隷が貴方をお待ちですよ。 また、ランベリクの子どもですか?いい加減、貴方もお遊びをお辞めになったらいかがですか。使用人も使わずこそこそと、そんなことをしておられるから、周りで変な噂が立つのですよ」 バルトは早口にそう言い、溜め息を吐いた。 城の中では、アルベールが奴隷であるシエルを気に入っていると噂がだんだん広まり、今では寵愛していると噂がひとり歩きしている。 加えて、バルトは奴隷を酷く軽蔑しており、出来るだけ奴隷との関わりを持とうとしない。 当たり前だが、主人であるアルベールがシエルに手をかけているのも、気に入らないのである。

ともだちにシェアしよう!