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第158話

自分だけで悩んでいても埒が明かないことは、もう分かりきっていて、バルトの控える書斎へと足を運んだ。 書斎に戻ると、バルトはまるでアルベールが今ここに来ることを分かっていたかのように、ティーの準備をしていた。 「アルベール様、本日はカモミールティーをご用意させていただきました。少しお気持ちを落ち着けていただければと」 「あぁ」 バルトはアルベールが座りやすいように椅子を引き、ほんのりと湯気の立つ紅茶を差し出した。 アルベールは普段にも増して口数が少なく、悩んでいるということは誰が見ても分かるほどだった。 そして、その悩みはシエルだということも、バルトは嫌なほどに分かっていた。 「アルベール様、クライトマン皇帝がまた明日、こちらへ伺うと仰っておりまして…」 「今すぐ呼べ」 「……え?」 「クライトマンを、今すぐここへ呼んでくれ」 先ほど追い返したばかりであるのに、そんな発言をするとは思わず、バルトはつい聞き返したが、どうやら空耳ではなかったようだ。 バルトにとって、シエルはただの奴隷であるくせに、主人であるアルベールの調子を狂わせる邪魔な存在だ。 このままクライトマンにシエルを引き渡してくれればと祈りながら、伝書鳩に手紙を持たせ、ティエンヌへの方角へと放った。

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