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第160話
「私が思うに、彼はあの奴隷のために動いている。けれど、連れ去ったあの子を、自分の手でこちらに返してきました。
彼はあの子を第一に考えてるのだと思います。
それと、もしもまたあのようなことがあれば、私は命を懸けて貴方をお守りします」
「そうか…。ならいい」
アルベールが話を切り、二人を静寂が包んだ。
しかし、それも束の間、コンコンというノック音とともに、使用人からエルヴィドが来たとの知らせがあった。
応接室の前に着くと、バルトは頭を下げて、アルベールを一人で部屋に入るよう誘った。
応接室に入ると、今回は先ほどとは逆に、アルベールがソファに腰掛けるエルヴィドに出迎えられた。
「まさかこんな早く応じてもらえると思わなかった。一体どういう心境の変化?」
「…シエルがおまえに相談したいことがあると言っていた」
「へぇ?それで、彼と会わせてくれるの?」
エルヴィドは少し挑発気味な口調で、アルベールに問いかけた。
アルベールはエルヴィドのペースに飲まれないよう、ゆっくりと息を吐いた。
「あぁ。だが、条件がある」
「条件…?何、言ってごらんよ」
「おまえがシエルに手を出さないか確認するために、バルトも部屋に入れる」
「あの執事くんだね。いいよ、じゃあ彼のところへ案内して」
アルベールは無言で立ち上がり、部屋を出てバルトに端的に事情を説明し、シエルの部屋へと足を進めた。
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