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第164話

「あ、あのね……」 「うん?」 「ア…、アル様の…、アル様の顔が、見れないの…っ!」 エルヴィドは一瞬、照れ臭さからなのかと拍子抜けしたが、シエルの辛そうに歪んだ口元と目に溜まる涙から、深刻な事情なのかと考え直した。 あれだけ酷いことをされていたにも関わらず、シエルの今の悩みは、アルベールを見れないということだったようだ。 「嫉妬してしまいそうだ…」 エルヴィドは顔を抑えて、深く息を吐いた。 エルヴィドに悩みを吐き出すことができた安心感からか、シエルはえぐえぐと嗚咽した。 シエルとアルベールの関係を手伝ってしまう様なこと、本当はしたくないのだが、悲しんでいるシエルなんて、エルヴィドは見たくなかった。 しゃくりあげるシエルを落ち着かせる様に、優しい声色のまま、話しかける。 「そっか。だから目隠ししてたんだね。 シエルは何か思い当たること、ある?」 「…ひくっ……ふぅう……、な…、なぃ…けどっ、こわ…怖いの……」 「ん〜……。どうしてだろうね?ヴィクトリアが視界に入ると、怖くなるの?」 「うん……。ひっく……ぅ……」 何度も涙を拭いながら、シエルは必死にエルヴィドの質問に答える。 けれど、シエルに思い当たる節がない以上、アルベールを問い詰めるしかない。 エルヴィドはシエルをあやして、泣き止ませてから部屋を出た。

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