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第165話

扉の近くには、壁に背を預けながら腕を組むアルベールの姿があり、エルヴィドは怒りを露わにしたまま、アルベールの前に立った。 後ろからバルトが様子を窺っているため、暴力は振るえず、エルヴィドはこの溜まった怒りをどうすればいいか分からなかった。 「シエルは何て?」 「おまえ…!よくそんな軽口が叩けるな?!」 「俺は相談の内容を聞いている」 「…っ!!お前の顔が見れないって、泣いてたよ。でも、何故見れないか分からないって…。おまえ、一体シエルに何をした?」 気に触るアルベールの発言に、エルヴィドも冷静になろうと息を吐いたが、次のアルベールの発言で、エルヴィドの怒りは頂点に登った。 「何って、目の前で殺し合いを見せただけだ」 淡々としているアルベールの右頬目掛けて、エルヴィドは腕を振り上げ、殴りかかった。 しかし、悲しくも、それは後ろに立つバルトに止められてしまった。 「ヴィクトリア!!なんで君にはシエルの気持ちがわからない?」 エルヴィドはバルトに腕を抑えられながらも、アルベールへ怒りをぶつけた。 「シエルは両親を殺されたんだ!どれだけのトラウマがあると思う?!おまえをどれだけ恨んでいると思う?!」 「そんなこと知るわけないだろ」 「おまえ、分かってたんだろ?!シエルがおまえを見たら怯える理由を!あの子は本能で、おまえがやった残虐な行為を記憶から消したんだ!!だけど、体は覚えてる。おまえが怖い男だと知っていて、怯えてるんだ」 「………」 「お願いだから、これ以上あの子のトラウマを深くするようなことしないでくれ…。大切にしてあげてよ……。俺じゃ、あの子を幸せにはできないから」 エルヴィドは悔しさに歯を食いしばりながら、抵抗していた力を抜いた。

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