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第167話

視線の先には、目隠しを外したシエル。 少し唇を噛んで震えている様子ではあるが、シエルは涙を流さずに、アルベールだけを見つめていた。 「ア…、アル様っ……!」 シエルが声を発した瞬間零した涙は、恐怖からのものなんかではなく、アルベールをやっと目にすることができた喜びからであった。 扉の前で立ち尽くすアルベールに、シエルは力無く、たどたどしい足取りで近付いた。 手足に嵌められていた枷は、いつの間にかアルベールから鍵を奪い取ったエルヴィドによって、外されていたようだ。 アルベールに手が届く目前、シエルは前につんのめってこけそうになった。 シエルは今から訪れるであろう痛みに目を閉じたが、痛みの代わりに感じたのは、手に触れる温かさ。 「アル様……ッ!」 シエルの右手をアルベールが掴み、支えてくれていた。 ただ支えるために触れただけなのに、シエルは幸せそうに微笑んで、アルベールを見上げた。 美しいオッドアイの瞳には、はっきりとアルベールの顔が映っていた。 綺麗な瞳は次第にぼやけ、涙が流れ落ちた。 「抱きしめてやってよ。 シエル、勇気出したんだから」 エルヴィドが声をかけ、アルベールはハッとしたように我に返った。 抱きしめる……? そんなことをしてしまったら、自分の思いに制御が効かなくなりそうで怖い。 けれど、微かに震えながら見つめてくるシエルを見て、ただ立っているだけではいられなかった。

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