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第168話

「悪かった……」 支えていた腕を引き寄せ、アルベールはシエルを自身の腕の中に閉じ込めた。 シエルの華奢な身体は、抱きしめるだけで折れそうなほど細かった。 アルベールは顔を見られないようにと、シエルの顔を自分の胸元に埋めた。 しかし、視線の先ではエルヴィドが少し笑っていて、アルベールは思わず舌打ちを打った。 シエルは息ができず苦しいのか、んーんーと唸っており、アルベールが少し抱きしめていた力を抜くと、安心したように呼吸を整えてから、再び胸元に顔を埋めていた。 「………好き……。アル様っ……好き!大好きっ」 長年の間、心の奥に溜め込んでいた慕情が溢れて、シエルはアルベールに届くようにと、何度も何度も心の内を吐露した。 シエルは緊張の糸が切れ、ぱったりとアルベールの胸の中で眠り始めた。 アルベールはシエルを抱きかかえ、ベッドへと足を進めた。 ベッドに腰掛けていたエルヴィドは、立ち上がって扉の方へと向かう。 「もう、俺はお邪魔みたいだから帰るね」 「待てよ。同盟の話は…」 「今ので少しは俺のこと、認めてくれたでしょ?月に一度、シエルと二人きりで会わせてくれるという条件で手を打とう」 いつの間にか優位に立っていたエルヴィドが条件を提示し、アルベールは少し戸惑ったものの、シエルのためにはエルヴィドと会わせた方がいいと判断し、お互いに契約書に捺印した。

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