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第170話
「ぅぅん………」
キャラメルの甘い匂いが鼻をくすぐり、シエルはゆっくりと目を開いた。
「シエル様、起きられましたか?」
声をする方を探して辺りを見渡すと、ベッドから少し離れた机のそばにバルトがいた。
バルトはワゴンの上で、カップやソーサーを準備している。
どうやら、甘い匂いもそこから漂っているようだ。
シエルが上肢を起こすと、バルトはワゴンを押してベッドサイドへ近づき、ソーサーにカップを置いて、シエルに差し出した。
「キャラメルマキアートです。随分気を張られていたようなので、甘いものに致しました。お飲みになって、少し気をお休めください」
「え……、ぁ、ありがとう…ございます……」
シエルとバルトはエルヴィドが来た時に初めて対面したが、一度会っただけでも、シエルにはバルトが優秀な執事だと言うことが分かった。
これだけ優秀であれば、アルベール付の執事だということも納得できる。
そうであるのに、何故そのような執事が自分の世話をしているのか、シエルには全く分からなかった。
シエルが不思議そうに手を止めているのを見て、バルトは落ち着いたトーンで、シエルに話しかけた。
「シエル様は今の自分がどう変わったかお気付きですか?」
「え……?」
バルトに言われて、シエルは自分の体を見下ろした。
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