171 / 266

第171話

手足に付けられていた枷はなく、服は手触りのいいパジャマを着せられていた。 訳が分からずにバルトに視線を戻すと、バルトはにこりと微笑んだ。 「寝る前のことを、お覚えでいらっしゃいますか?あなたのお気持ちが、アルベール様に伝わったのだと思いますよ」 「寝る前…?………っ!!」 シエルは少し考えたのち、思い出したのがボボボッと顔を赤くして俯き、そして青褪めた。 アルベールに、自分の内に秘めていた思いの丈を、全てぶつけてしまったのだ。 「ど…どうしよう……。アル様怒ってないですか?」 「何故アルベール様がお怒りになると思うのです?」 「だって、僕みたいな…。アル様は女の子が好きなのに、僕なんて男だから胸だってないし、女の子みたいに可愛くないし、気持ち悪い……でしょ?」 シュンとした表情で視線をカップに落とすシエルを見て、バルトは一つ溜め息を吐いた。 「では、どうしてお気持ちをお伝えになったのですか?」 「そ…れは………」 「クライトマン皇帝に言われたからですか?」 「違う!!そ…うじゃなくて……、たしかに、エルは勇気はくれたけど、エルに言われたからなんじゃなくて…」 「それなら良かったです。大丈夫ですよ、アルベール様はお怒りになどなっておりませんから。仕事がひと段落したら、こちらに顔を出すようお伝えしておきます」 バルトはテーブルに焼き菓子を置いて、シエルに声をかけてから部屋を出て行った。

ともだちにシェアしよう!