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第173話

アルベールは焼き菓子を摘んだ指を舐め、そのままソファへ腰掛けた。 シエルを引っ張り上げ、膝の上に乗せた。 「あの後ちゃんと考えた」 「え……?」 「おまえの気持ちは、俺には受け取れない」 告白なるものをはっきりと拒否されて、シエルは悲しそうに顔を歪めた。 しかし、アルベールは言葉とは裏腹に、シエルを優しく抱きしめた。 「けど、お前にはそばに居て欲しい。だから、ずっとここにいろ」 驚いたシエルはバッと顔を上げて、アルベールの顔を見た。 暗い紫の瞳に吸い込まれそうになる。 もう瞳を見つめたって怖くはなくて、むしろ少し前のように心の奥がきゅんと高鳴る。 アルベールの腕が胸元に回され、ドキドキと心臓が強く打ち、落ち着かない。 気持ちを受け取れないと言ったのに、そんなセリフ、反則だ。 シエルは胸元をぎゅっとおさえた。 アルベールの言葉の真意が分からない。 ただ体の関係を保っておきたいだけなのか、それとも、自分を何かに利用するつもりなのか。 しかし、真剣な顔で伝えてくるアルベールに応えたくて、シエルは小さく頷き、アルベールの手を握った。

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