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第176話

日中はバルトに世話をされ、夜にはアルベールに抱かれる毎日が続き、シエルの精神状態は少しずつ安定していった。 手首や足首に残っていた枷跡も殆ど消え、つるんとした陶器のような肌には、瑞々しい潤いも感じられるようになった。 今日は久々にエルヴィドとの面会の日で、シエルは部屋のソファに座って、嬉しそうに足を揺らしていた。 「シエル様、まもなくクライトマン皇帝がお見えになります」 「うん。エルと会うの久々だなぁ…」 「月に一度ですからね。今日は何をお話されるのですか?」 「うーん……。考えてなかったです」 「1時間だけなんですから、後悔なさらないように楽しんでくださいね」 バルトと話していると、部屋の扉がノックされ、エルヴィドが入ってきた。 シエルは嬉しそうにソファから立ち上がって、エルヴィドの方へと駆け寄った。 「エル!」 「久しぶりだね、シエル」 「お話したいっ!」 年相応、いやそれ以下かもしれないが、無邪気に笑うシエルに、エルヴィドもバルトも微笑ましい気持ちになった。 二人はソファに腰をかけ、バルトが紅茶や焼き菓子をテーブルに並べる。 シエルはまるで家族に話しかけるように、終始笑顔で、エルヴィドに最近あった嬉しいことを報告していた。 前までのようなシエルの暗い表情や悩みの類がなく、エルヴィドは安心した。 一時間はあっという間に過ぎ去った。 「それじゃあ、俺は帰るね。シエルが元気そうでよかった」 「エ、エル!……ギュってして」 エルヴィドは優しく微笑んで、シエルを抱きしめた。 アルベールに感じるドキドキとは違って、全身が安心に包まれるような感覚に、シエルは気持ちよさそうに目を閉じた。

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