179 / 266

第179話

「クライトマン皇帝、お待ちしておりました」 「遅くなって悪かったね」 ノックして扉を開けると、バルトはエルヴィドの姿を確認するなり頭を下げた。 一人掛けのソファにエルヴィドを誘導し、紅茶を差し出してから、バルトも向かい側へと腰掛けた。 「それで私にどういったご用件が…?」 腰を下ろすなり、早く終わらせたいのか、バルトから話を切り出した。 「さっきも言ったでしょ?君は奴隷制度を憎んでいるんじゃないかって」 「どうしてそうお思いになられるのですか?」 「俺はオークション会場に行く度に、君に奴隷制度を廃止しろと訴えているよね。 人身売買を始めたのはどっかのお偉い貴族だが、それに目をつけて、ヒューマンオークションを発展させたのはヴィクトリアだ。 ヒューマンオークションで富を得ているペリグレットの人間だったら、俺の意見には大反対するはず。 なのに、君はむしろ俺の意見に肯定的な態度を見せた。そこがずっと引っかかっていてね」 「さすがクライトマン皇帝です。よく人を観察なさっている。けれど、私はアルベール様をお慕いしていて、奴隷制度に反対するなど、出過ぎた真似は致しませんよ」 バルトは紅茶を飲み切って、話を切り上げようと席を立った。

ともだちにシェアしよう!