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第180話

しかし、エルヴィドが簡単に食い下がるわけもなく、バルトが腰を上げても話を続けた。 「俺には昔、愛した女性がいたんだ。 彼女はもういないけど、もし、その人が生きていて、奴隷なんかにされることがあったら、どんなに嘆き悲しむだろうって。 奴隷にされた本人も、大切な人を奴隷として奪われた人も、憎しみで溢れてしまうんじゃないかって、そう思うんだよね」 「クライトマン皇帝……」 「やだな、そろそろエルヴィドって呼んでよ。それで、少しは話を聞いてくれる気にはなった?」 「エルヴィド様……、私は………」 「ヴィクトリアを裏切れって言いたいわけでもないし、君をティエンヌに勧誘しようってわけでもない。ただ、同盟を結びなおしたんだから、少しは俺の言い分もヴィクトリアに聞いて欲しくて、君の同意が欲しいだけだ」 きっとエルヴィドは、自分の中に渦巻く憎しみの感情を放出させ、楽にしてくれようとしているだけなんだろう。 なんとなくそれを察したバルトは、もう一度ソファに腰掛けて、静かに口を開いた。 「少し長くなりますが、私の昔話をお話ししてもいいでしょうか…?」 「もちろん」 バルトはポケットの中にある懐中時計を握り締めながら、ぽつぽつと話し始めた。

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