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第194話
木製で面積も小さい離れは、たちまち火の海に飲み込まれた。
バルトは必死にロープを切ろうと暴れるが、全く身動きが取れないまま、椅子ごと倒れてしまった。
最後はゼルの姿も見れないまま死んでしまうのか、と全てを諦めようとしたとき、後ろに結ばれた手に微かな温かみを感じた。
「バルト……。おま…え…は…生き…ろ……」
「ゼル?!」
「い…つか…レベッカを…救って……くれ…」
ゼルは火で縁が無くなって割れた窓ガラスを使い、バルトを縛っているロープを切った。
手が自由になったバルトは、自分で足のロープも解き、ゼルを背負って脱出を試みるが、既に離れ全体は火に囲まれていた。
「俺…を置いて…いけ……。お…まえ…だけ…なら…助…かる……」
「何言ってるんだよ!ゼルを置いて行けるわけないだろ!!」
「ここを出…たとして…俺は無…理だ……。自…分の…命…くらい…わか…る…よ、医者の子だ…ぞ…?」
「ゼル!!」
「最…後くらい……、義兄さ…ん…って、呼…べよ……」
「馬鹿!!そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」
その間にも火はどんどんと燃え移り、逃げ場は人一人がギリギリ通れそうな場所だけだった。
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