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第195話
「は…やく……行けっ……!」
「義兄さん!!!」
「早く…っ!!」
バルトは涙を堪えて、火の浅い所へ飛び込んだ。
熱い、熱い、熱い。
それでも、家族の仇を討つために。
そして、奴隷として連れていかれた姉を助けるために。
バルトは生き残らねばならなかった。
無事脱出が成功したバルトは、後ろを振り返った。
離れはめらめらと音を上げ、燃え盛っていた。
バルトの瞳はその光景を映して赤く燃え、その赤は涙と一緒に流れ落ちた。
「俺が絶対姉さんを助けるから……」
そう呟いたバルトの声は、激しい炎の音に掻き消された。
死んでゆくゼルを見ていられず、バルトはその場を後にした。
その夜は、珍しく激しい雨が降った。
まるで神様が涙を流した様な…、
そんな夜だった。
翌日、バルトは遺骨を回収しようと、自分の家があった場所を探し回った。
本家で殺された両親の遺体はすぐに見つかったが、ゼルの遺体だけは、跡形もなく消えていた。
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