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第196話
「その後、アルベール様に拾われ、私は今ヴィクトリア家執事として、お仕えしています」
自分の過去をエルヴィドに全て吐露したバルトは、昔を思い出してしまったのか、辛そうに顔を歪めた。
「ヴィクトリアがその後、奴隷制度を利用したとき、憎しみは生まれなかったの?」
「私はアルベール様に仕えると決めた時、同時に命を託すと決めました。奴隷制度は時代の流れ上、止めようもありませんでした。
それに、収益が軍資金になる以上、仕方がなかった。軍を強くしなければ、カルバンは倒せない」
「なるほどね…。でも今や、昔を思い出さないためにも、関わらないように遠ざけていた奴隷の世話係…か。」
「しかし、アルベール様は私の気持ちを汲み取って、今回カルバンへの戦争を決断してくださいました。私の願いは、シエル様がキッカケで叶えられたも同然です」
エルヴィドはバルトが奴隷制度を嫌う理由にも、急にあんな大国に戦争を挑もうとしている理由にも、やっと納得がいった。
けれど、同時に不安にもなった。
いつ何時も冷静で、咄嗟の判断をミスしないことで有名なバルトであるが、殺したいほど憎んでいるカルバン王を目の前にしても、冷静でいられるのだろうか。
戦場での焦りは死に直結する。
それをエルヴィドは、経験上分かっているのだ。
バルトはシエルを幸せにするためのキーパーソンだ。
そのため、バルトを失うのは、エルヴィドにとってもマイナスになる。
エルヴィドは話を聞いて、バルト自身にも幸せになってほしいと心から思った。
「バルト、絶対に冷静でいて。もし、目の前にどんな憎い相手がいても、絶対に興奮するな」
「エルヴィド様…」
「君が死んだら誰も報われない。カルバンを滅ぼして、お姉さんを取り返すんだ。そして、帰っておいで」
エルヴィドは俯くバルトの肩に手を置いて、部屋を出て行った。
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