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第206話

「クライトマン、頼むぞ」 「任せて。…って、そんな威嚇しないでよ。何もしないよ、シエルがお願いするまではね」 「何かあったら、すぐに知らせろ」 アルベールはティエンヌの王宮へ向かい、エルヴィドにシエルを預けた。 エルヴィドがシエルに声をかけるが、シエルは泣きそうになりながら、なかなかアルベールの服の裾を離さずに駄々をこねていた。 「ヴィクトリア、そんな軽装でシエルの不安を煽るようなことしないでよ」 「この方が動きやすい。それとも、俺が負傷するとでも思ってるのか?」 「人には誰しもミスがつきものだ。おまえが死んだら、シエルはどうなる?」 「勝手に殺すな。シエルをやる気はさらさらない。そいつは俺のものだ」 アルベールはシエルの首筋を人差し指でなぞった。 快感で貞操帯に締め付けられる痛さにしゃがみ込むシエルを置いて、自国の軍の中へと姿を消した。 シエルはその場にしゃがみ込んだまま、不安そうにアルベールの姿を見つめていた。 「シエル、中に入ろう。軽食を準備してるから」 「も……ちょっとだけ……」 ペリグレット軍が見えなくなっても、シエルはその場から動かず、じっとアルベールの消えた方向を見つめ続けていた。 その瞳からは愛しさと不安が伝わってきて、しばらくはここにいたいのだろうなと察したエルヴィドは、入口へと続く階段に腰掛けて、シエルが飽きるまで付き合っていた。

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